ら、金払いをキチンキチンとして飯をチャンチャンと喰ってさえおれば、半日や一晩いなくたって、気にも止めてくれないという、現場不在証明《アリバイ》の胡魔化《ごまか》しには持って来いの場所だ。……ところでこれに対するWはと見ると、いつも九大医学部の法医学教授室に立て籠《こも》って勉強ばかりしている。仕事の忙がしい時は内側から鍵をかけていて、一切の用事は電話で弁ずる。鍵穴が塞《ふさ》がっている時は、決して外からノックしないのが、法医学部関係者の規則みたような習慣になっている。こうしたWの神経質は、小使や友人は勿論の事、新聞記者仲間でも評判になっている位だから、これも現場不在証明《アリバイ》の製造には最も便利な習慣だ。
……サア又、一方に……呉一郎が、結婚式の前日に出席する筈になっていたという、福岡高等学校の英語演説会の日取や、時刻は、新聞に気を付けておればキットわかる。呉一郎が軌道に乗らずに歩いて帰るという習慣も、著しい習慣だから、前以て調査しておれば直ぐに気が付く……そこで石切場に働いている石切男《いしや》の一家族に、何かしら検出の困難な毒物を喰わせて、その日を中心にした二三日か一週間も休
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