事件を、厳正、公平に審理してみたまえ。吾輩が検事、兼、被告人という一人二役を兼ねた立場になってこの事件の最後の嫌疑者、即ち『W』と『M』の行動に関する一切の秘密を、知っている限り摘発すると同時に、告白するから……君は結局、双方の弁護士であると同時に裁判長だ。同時に精神科学の原理原則に精通した名探偵の立場に立ってもいい……いいかい……」
私の直ぐ傍に立佇《たちど》まった正木博士は、リノリウムの床の上を、北側から南側へコツリコツリと往復しながら咳一咳《がいいちがい》した。
「……まず……呉一郎が、その絵巻物を見せられて、精神病的の発作に陥れられた当時の事から話すと……その大正十五年の四月の二十五日……呉一郎とモヨ子との結婚式の前日には『W』も『M』も姪の浜から程遠からぬこの福岡市内に確かに居た。……Mはまだ九州大学に着任匆々で、下宿が見付からなかったために、博多駅前の蓬莱館《ほうらいかん》という汽車待合兼業の旅宿《はたご》に泊っていたが、この蓬莱館というのはかなりの大きな家《うち》で、部屋の数が多い上に、客の出入りがナカナカ烈しい。おまけに博多一流で客|待遇《あしらい》が乱暴と来ているか
前へ
次へ
全939ページ中805ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング