こう云ううちに正木博士は大|卓子《テーブル》の北の端にピタリと立止まった。両腕を縛られているかのようにシッカリと背後《うしろ》に組んだまま、私の方を振返ってニヤニヤと冷笑した。その瞬間に、その鼻眼鏡の二つの硝子《ガラス》玉が、南側の窓から射込む青空の光線をマトモに受けて、真白く剥《む》き出された義歯《いれば》と共に、気味悪くギラギラピカピカと光った。それを見ると私は思わず視線を外《そ》らして、眼の前の小さな焼焦《やけこ》げを見たが、その中から覗いていた黒ん坊の顔はもうアトカタもなく消え失せていた……と同時に私の頬や、首筋や、横腹あたりが、ザワザワザワと粟立《あわだ》って来るのを感じた。
正木博士はそのまま、黙って北側の窓の処まで歩いて行った。そこでチョイト外を覗くと直ぐに大|卓子《テーブル》の前の方へ引返して来たが、その態度は、今までよりも又ズット砕《くだ》けた調子になっていた。これ程の大事件を依然として馬鹿にし切って、弄《もてあそ》んでいるような、滑《なめ》らかな、若々しい声で言葉を続けた。
「……そこでだ。いいかい。まず君が裁判長の頭になって、この前代未聞の精神科学応用の犯罪
前へ
次へ
全939ページ中804ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング