に、廻転椅子の中に小さくなって、眼の前の緑色の羅紗《らしゃ》の平面を凝視していた。その眩《まぶ》しい緑色の中に、ツイ今しがた発見した黒い、留針《ピン》の頭ほどの焼け焦《こ》げが、だんだんと小さな黒ん坊の顔に見えて来る……大きな口を開《あ》いてゲラゲラ笑っているような……それを一心に凝視していた。
「そうして更に恐るべき事には、この書類に現われている自白と、犯罪の隠蔽手段は、一分一厘の隙間《すきま》もなく吾輩をシッカリと押え付けておるのだ。……即ち、もしもこの書類が公表されるか、又は司直の手に渡るかした暁には、如何に凡《ぼん》クラな司法官でも、直ぐに吾輩を嫌疑者として挙げずにはおられないように出来ているのだ。……のみならず……万一そうして吾輩が法廷に立つような事があった場合には、仮令《たとい》、文殊《もんじゅ》の智慧、富楼那《フルナ》の弁が吾輩に在りと雖《いえど》も、一言も弁解が出来ないように、この調査書は仕掛けてあるのだ。そのカラクリ仕掛の恐ろしい内容を今から説明する……いいかい……吾輩がこの戦慄すべき学術実験の張本人として名乗りを上げずにおられなくなった、その理由を説明するんだよ」

前へ 次へ
全939ページ中803ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング