だからね。それを若林が躍気《やっき》になって、是非とも犯人を探し出してもらいたいと云ってヤイヤイ騒ぎ立てるために、ツイこんな事になってしまったんだが……とにかく吾輩は、そんな訳で、犯人なぞに用はないんだ……ハハン……」
 こう云い放った正木博士は、悠然と椅子の上に両肱を張った。呆れている私を眼下に見下しながら葉巻の煙を輪に吹いた。
 私は、その如何にも学者然たる冷やかな風付《ふうつ》きに、云い知れぬ反感を唆《そそ》られない訳に行かなかった。そればかりでなく、その人を愚弄しておいて突放すような態度に対して、たまらない不愉快を感じ初めたので、私は思わず座り直して咳払いをした。
「……そ……それあ怪《け》しからんじゃないですか先生。……いくら学者だってアンマリ冷淡過ぎはしませんか」
「冷淡過ぎたって仕方がない。よしんば吾輩が大負けに負けて、若林の加勢をして、その犯人を探し出したにしたところが、そいつをフン縛る法律が在るか無いか……」
 私は眼の中が何となく熱くなって来るのを感じた。云いたい事を一ペンに云って終《しま》おうとして、云えなくなったような気がして……。
「……法律……法律なんてもの
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