た勝空《しょうくう》という坊さんも、呉家の中興の祖である虹汀《こうてい》も、この点には全然注意を払っていないようであるが、しかしこれはこの絵巻物が現わしている変態心理の暗示が、男性にだけ有効な事がわかり切っていると同時に、これに刺戟された男性たちの心理遺伝の発作が、相手の女性の心理遺伝に影響するような場合が全く想像され得なかったからだ。……ところが今度は場合が全く違う。違うにも何にもお互に他人同志ではない。千載の一遇と云おうか、奇蹟中の奇蹟とでも考えられようか、相手のモヨ子の姿が、その絵巻物の主人公と寸分違わなかったために、呉一郎の心理遺伝も、今までに類例の無い、殆ど完全に近い暗示に支配される事になった。従ってその一言一句、一挙一動の極く細かいところまでも、その当時の呉青秀の動作と寸分違わぬ感じを現わし続けたために、ゆくりなくもモヨ子の心理遺伝を誘発する事になったのではあるまいかと考えられる。これは余りにも奇怪に過ぎる事実の暗合を想像したものだが、しかし満更の想像ばかりではない。相当の根拠を持って云う事なのだ。……というのは外でもない。すなわちその調査書が証明している通り、呉一郎が死人
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