る。あなたは御存知あるまいが、あなたが姉さんの亡骸《なきがら》を写生し初めた昨年の十一月というのが安禄山が謀反《むほん》を起した月で、天宝の年号は去年限り、今は安禄山の世の至徳元年だ。天子様も楊貴妃様も、この六月に馬嵬《ばかい》で殺されてお終《しま》いになった。折角の忠義も水の泡です。それよりも妾と一緒に、どこかへ逃げて下さらない……とキワドイところで口説《くど》き立てた」
「無鉄砲な女ですね。又殺されようと思って……」
「イヤ。今度は大丈夫なんだ。……というのは呉青秀先生、自分の全部を投げ出してかかった仕事がテンからペケだった事が、芬子の説明で初めて解ったのだ。そこでアメリカをなくしたコロンブスみたいにドッカリとそこへ座ると、茫然自失のアンポンタン状態に陥ったまま、永久に口が利けなくなってしまったのだ。旧式の術語で云うと心理の急変から来る自家障害という奴だね。……そいつを見ると芬子さんイヨイヨ気の毒になって、天を白眼《にら》んで安禄山の奸《かん》を悪《にく》んだね。同時にこの忠臣のお守りをして、玄宗皇帝や楊貴妃の冥福を祈りつつ一生を終ろうという清冽《せいれつ》晶玉《しょうぎょく》の如
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