ら受けた感化かも知れないが」
「……ですけども、自分はそう思っていないじゃないですか」
「無論、そんな自省力を持ち得る年頃じゃないさ。殊《こと》に女だから、どんなデリケートな理屈でも自由自在に作り上げて、勝手気儘な自己陶酔に陥って行ける訳さ。気持ちの純な、頭のいい人間の変態心理は、ナカナカ見分けが付きにくいんだよ。……その代りこっちの眼さえ利いて来れば、そこいらの無邪気な赤ん坊や、釈迦、孔子、基督《キリスト》にでも色んな変態心理を見出すことが出来る」
「……驚いたなあ。……そんなもんですかナア……」
「まだまだ驚く話が、今までの話の裏面に隠れているんだが、それは、あとから説明するとして、サテ、少々話が長くなったから端折《はしお》って話すと、その時に呉青秀に迫って、根掘り葉掘り、これまでの事情を聞いた上に、現実の証拠として、自分とソックリの姉の死像を描いた絵巻物を開いて見せられた芬子嬢は、実に断腸《だんちょう》、股栗《こりつ》、驚駭《きょうがい》これを久しうした。けれども結局、義兄夫婦の忠勇義烈ぶりにスッカリ感激して号泣|慟哭《どうこく》して云うには、蒼天蒼天、何ぞ此《かく》の如く無情な
前へ 次へ
全939ページ中724ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング