思召《おぼしめし》だ……ドウヤラ貴妃様の御注文らしいがね」
「絵の天才だったのですねその青年は……」
「無論さ。十八九の青年の癖に、古今に名高い禿頭の大詩人、李太白の詩と並ぶ絵を描く奴だから、生優しい腕前じゃないよ。もっとも運が悪くて夭死《わかじ》にしたために、名前も描いたものも余り残っていない。前にも云った通りその頃の記録には勿論の事、近頃の年代記類にも記載してあるにはあるが、書物によって年代や名前が少し宛《ずつ》違っていて、確実なところはわからないようになっている。しかし、何しろここに詳しい事を記載した実物の証拠があるんだから、将来の史学家はイヤでもこの方を本当にしなければなるまいて」
「そうするとその絵巻物はトテモ貴重な参考史料なんですね」
「貴重などころの騒ぎじゃない……ところで話はすこし前に帰るが、その青年進士呉青秀は、天子の命を奉じてスケッチ旅行を続けている間がチョウド六年で、久し振りの天宝十四年に長安の都に帰って来ると、そのお土産の風景絵巻が、頗《すこぶ》る天子の御意《ぎょい》に召して、御機嫌|斜《ななめ》ならず、芸術家としての無上の面目を施した上に、黛子《たいこ》さんと
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