そのあとを見送って、扉の閉まるのを見届けた正木博士はイキナリ前屈《まえこご》みになってカステーラの一片を手掴みにすると、たった一口に頬張り込んで熱い茶をグイグイと呑んだ。そうして私にも喰えという風に眼くばせをした。
しかし私は動かなかった。両手を膝の上に束ねて眼を瞠《みは》ったまま、正木博士のする事を見ていた。何かは知らず私には解らない別の意味で、互いに火花を散らしているらしい二人の博士の緊張ぶりに心を惹《ひ》かれながら……。
「アハハハハハ。何もそんなに気味わるがる事はないよ。これだから吾輩は悪党が好きなんだ。彼奴《きゃつ》め吾輩が昨夜から徹夜をして、何も喰っていない事を知っていやがるんだ。そこで吾輩の大好物の長崎のカステラを遣《よこ》して上杉謙信を気取りやがったんだ。病院の前で患者の見舞用に売っているシロモノだから何も心配する事はない。猫イラズも何も這入ってやしないよ。ハハハハハハハ」
と云ううちに又二|片《きれ》三|片《きれ》口の中へ押し込んで茶を立て続けに飲んだ。
「ああ美味《うま》い。時にどうだい。これからもっと話を進めるんだが、その前に、今さっき読んだ呉一郎の前後二回の
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