こや》が一ペン……と、看護婦が一度と……その前に自分で何遍も何遍も……すくなくとも十遍以上ここん処《とこ》を掻きまわしているんですけど……ちっとも痛くはなかったんですが……」
「何遍引っ掻きまわしていたって、おんなじ事だよ。自分が呉一郎と全然無関係な、赤の他人だと思っている間は、その痛みを感じないが、一度、呉一郎の姿と、自分の姿が生き写しだという事がわかると、その痛みを突然に思い出す。……そこに精神科学の不可思議な合理作用が現われて来る……宇宙万有は悉《ことごと》く『精神』を対象とする精神科学的の存在に過ぎないので、所謂唯物科学では、絶対、永久に説明出来ない現象が存在する事を如実に証拠立て得る事になるという、トテモ八釜《やかま》しい瘤《こぶ》なんだよ、それは……すなわち君の頭の痛みは、あの呉一郎の心理遺伝の終極の発作と密接な関係があるのだ。というのは呉一郎は昨夜《ゆうべ》、その心理遺伝の終極点まで発揮しつくして、壁に頭を打ち付けて自殺を企てたのだからね。その痛みが現在、君の頭に残っているのだ」
「……エッ……エッ……それじゃ……僕は……やはり呉一郎……」
「ママ……まあソンナに慌てるな
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