ってこと……虻《あぶ》の心は蜂《はち》知らず。豚の心は犬知らず。張三が頭を打たれても李四は痛くも何ともないというのが普通の道理だ。すなわち唯物科学式の考え方なんだが」
正木博士は突然に、こんな謎のような言葉を、葉巻の煙と一緒にパクパク吐き出した。そうして私がその意味を飲み込めずに面喰《めんくら》っているうちに、片眼をつぶって顰《しか》めながらニヤニヤと笑い出した。
「然るにだ……現在、君自身には赤の他人としか思えない呉一郎の頭の痛みが、如何なる精神科学の作用で、君自身の顱頂骨《ろちょうこつ》の上に残っているか……」
私は今一度窓の外を振り向いて、解放治療場の一隅にニコニコ笑いながら突立っている呉一郎の姿を凝視しない訳には行かなかった。しかも、それと同時に私の頭の痛みが、何となく神秘的な脈動をこめて、新《あらた》に活《い》き活《い》きと疼《うず》き出したように思えてならなかった。
その眼の前に正木博士は、又も一ぷく巨大な烟《けむり》の一団を吹き出した。
「……どうだい。この疑問が君自身で解決出来そうかい」
「出来ません」
と私はキッパリ返事をした。頭を押えたまま……今朝《けさ》眼
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