の姿をこの眼で見、実在の音をこの耳で聴いている事を確信しない訳に行かなかった。……その確信を爪の垢ほども疑う気になれなかった。私は、今一人の自分自身としか思えないほど私によく肖通《にかよ》っている窓の外の青年、呉一郎の立っている姿を、何等の恐怖も感じないままに、今一度冷然と睨み付ける事が出来た。それから徐《おもむ》ろに正木博士をふり返ると、博士は忽《たちま》ち眼を細くして、義歯《いれば》を奥の方までアングリと露《あら》わした。
「ハッハッハッハッ。これだけの暗示を与えても解らないかい。君自身を呉一郎とは思えないかい」
 私は無言のまま、キッパリと首肯《うなず》いた。
「ハッハッハッ。イヤ豪《えら》い豪い。実は今云ったのは……みんな嘘だよ……」
「エッ……嘘……」
 と云いさして私は思わず頭を押えていた手を離した。その手を二本ともダラリとブラ下げたまま……口をポカンと開いたまま正木博士と向き合って、大きな眼を剥《む》き出していたように思う、恐らく「呆《あっ》」という文字をそのままの恰好で……。
 その私の眼の前で正木博士は、さも堪《たま》らなさそうに腹を抱えた。小さな身体《からだ》から、
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