るだけであった。
「……しっかりしろ。確《しっか》りしろ。そうして今一度よく、あの青年の顔を見直すのだ。……サアサア……そんなに震えてはいけない。そんなに驚くんじゃない。ちっとも不思議な事はないんだ。……確りしろシッカリ……あの青年が君にソックリなのは当り前の事なんだ。学理上にも理屈上にも在り得る事なんだ。……気を落ちつけて気を、サアサア……」
 私はこの時、よく気絶して終《しま》わなかったものと思う。おおかたこの時までに、いろんな不思議な出来事に慣らされていたせいかも知れないが、それでも、どこか遠い処へ散り薄れかけている自分の魂を、一所懸命の思いで、すこしずつすこしずつ呼び返して、もとの硝子《ガラス》窓の前にシッカリと立たせる迄には何遍眼を閉じたり開《あ》いたりして、ハンカチで顔をコスリまわしたか知れない。しかも、それでも私には今一度窓の外を見直す勇気がどうしても出なかった。頭《こうべ》を低《た》れて床のリノリウムを凝視《みつめ》たまま、何回も何回もふるえた溜め息をして、舌一面に燃え上る強烈なウイスキーの芳香《におい》を吹き散らし吹き散らししていたのであった。
 正木博士は、その間に
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