クして来るのを我慢する事が出来なかった。そんな馬鹿な事が……と思えば思う程そう思えて仕様がなくなって来るのであった。私はそうした神秘的な……息苦しい気持を押え付けよう押え付けようと焦燥《あせ》りつつ、なおも、解放治療場内の光景に眼を注いだ。老人の畠打ちを見ている呉一郎のうしろ姿を、異様な胸の轟きのうちに凝視した……。
その時であった。私の耳の傍で突然に、低い、囁《ささ》やくような声がしたのは……。
「何を見ているのだね……君は……」
その声の調子は、今までの正木博士のソレとは丸で違っていたので、私は又もドキンとして振り返った。
見ると正木博士は、いつの間にか私のすぐ傍に来て、細い煙の立つ葉巻を手にして突立っていたが、その顔からは今までの微笑が、あとかたもなく消え失せていて、鼻眼鏡の下に真黒い瞳を据えたまま穴のあく程私の横顔を睨みつけているのであった。
……私は深い溜息を一つした。そうして出来るだけ気を落ち付けて返事をした。
「解放治療場を見ているのです」
「フ――ウ――ム」
と腹の底で唸《うな》った正木博士は、やはり瞬き一つせずに私の瞳を見据えた。
「フ――ム。……そうして
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