……赤い煉瓦塀……白く眩《まぶ》しく光る砂……その上を逍遥《さまよ》う黒い人影……。
 その時に、私の前に立って、何かしら考え込んでいた正木博士は、やおら私をふり返って、何気なく窓の外を指《ゆびさ》した。
「……どうだい……ここがどこだか知っているかね君は……」
 けれども私は返事が出来なかった。只|微《かす》かに首肯《うなず》いて見せたばかりであった。それほど左様《さよう》に私は眼を開いた次の瞬間から、何ともいえぬ異様な場内の光景に魅せられてしまったのであった。
 青空の光りと照し合っている場内一面の白砂の上を、ウロウロと動きまわっている患者たちの黒い影は、殆ど全部が、最前の遺言書に描きあらわしてあった通りの仕事を、そのままに繰返していた。恰《あたか》も、その一人一人の一挙一動が、正木博士の心理遺伝の原則を、実地に証明する芝居ででもあるかのように……儀作老人は依然として鍬《くわ》を揮《ふる》いつつ、今一本の新らしい砂の畝《うね》を作り……青年呉一郎はやはり、こっちに背中を向けながら、老人の前に突立って、鍬を動かす手許を一心に見守っている。……年増女《としまおんな》は、ボール紙の王冠を
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