》そうに葉巻の煙を吸い込んだ。それから廻転椅子の肘掛けに両手を突張って、ソロソロと立ち上りかけた。
「……や……ドッコイショ……と……そこでいよいよ本勝負に取りかからなければ、ならないのだ。まず是非とも吾輩の手で君の過去の記憶を回復さして、君が誰であるかを君自身に確かめさせなくちゃ、若林の手前、卑怯に当るからね。……とりあえずこっちに来てみたまえ。今度は吾輩自身が、君の過去を思い出させる第一回の実験をやってみるんだから……」
 私はもう半分夢遊病にかかっている気持ちでフワフワと椅子から離れた。どこからか若林博士の青白い瞳が覗いているような気味わるさの中を、正木博士に導かれるままに南側の窓に近づいた……が……正木博士の白い診察服の肩ごしに窓の外を一眼見ると、私はハッとして立ち止まった。
 眼の下に狂人解放治療場の全景が展開されているのであった。……そうしてその一隅に紛《まぎ》れもない呉一郎が突立っているのであった。……老人の畠打《はたう》ちを見守りながら、背中をこっちに向けている……髪毛《かみのけ》を蓬々《ぼうぼう》とさした……色の白い……頬ぺたの赤い……黒い着物をダラシなく纏うた青年の
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