る。しかし、これに反して、君がドウシテモ呉一郎としての過去の記憶を思い出さなければ、早い話が吾輩の勝になる……君は『自我忘失症』と名づくる一種の自家意識障害を起して、九大の精神科に収容されている、第三者の立場から若林の手にかかって突然にこの事件に捲き込まれて来た無名の一青年という事実が公表され得る事になって、若林の計劃がオジャンになるという、その際どい土俵際に立っているんだよ君は……。ドウダイ面白いだろう。古今無双の名法医学者と、空前絶後の精神科学者の、痛快深刻を極めた智慧比べだ。しかも、その勝負を決すべき呉一郎が、君自身だかどうだかは、今も云う通りまだ決定しないでいる。ハッケヨイヤ残った残ったというところだね。ハッハッハッ……」
 正木博士の高笑いは、室《へや》の中の色々なものにケタタマシク反響しつつ、私の耳に飛び込んで来た。そうして二人の博士の云う事の、どちらが本当か嘘か解らないままボンヤリとなっている私の頭の中を、メチャメチャに引っかき廻すとそのまま、どこかへシインと消え失せて行った。

 しかし正木博士は私のそうした気持ちに頓着なく、又も片眼をシッカリとつぶって、さも美味《うま
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