時を見澄まして、コッソリとあの娘に引き会わせて、色と、慾と、理詰めの三方から、君自身に君自身を無理にも呉一郎と認めさせよう。そうして今も云ったように、吾輩を君の不倶戴天《ふぐたいてん》の仇敵《かたき》と思い込ませて、その事実を公式に言明させよう……彼の思い通りに引き歪《ゆが》めた事件の真相を社会に曝露させてやろう。……のみならず、その君の言明を、自分の畢生《ひっせい》の事業としている『精神科学的犯罪とその証跡』の第一例として掲げようと巧《たく》らんでいるスジミチが手に取る如くわかって来たのだ。
……そこで吾輩も考えた。……よろしい。そっちがそんな考えなら、こっちにも了簡《りょうけん》がある。もともと若林の精神科学的犯罪の研究は、吾輩独創の心理遺伝の学理原則を土台にして組み立てられているんだから、まぜっ返しをしようと思えば訳はない。ここで思い切って吾輩の精神科学の研究発表の原稿を全部焼き棄ててしまって、あとにその内容の概略を書いたヒヤカシ半分の遺言書を残しておけば、彼奴、若林は嫌でも応でもその著述の中に、この遺言書を組み込まなければ研究発表の筋が立たなくなる訳だ。しかし、果して彼奴《き
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