連れて来て、当直の医員に頼んで、たった今入院おさせになったところだと云う。おまけにそのお嬢さんというのは、今までに見た事もない、何ともかんとも云えない美しい綺倆《きりょう》だと云うんだ。
 ……その時には流石《さすが》の吾輩も、思わずアッと感歎の膝を打ったね。コイツは面黒《おもくろ》い事になった。この様子でみると彼奴《きゃつ》若林鏡太郎はどうして一筋縄にも二筋縄にもかかる奴じゃない。彼奴の法医学者としての価値に相当する……否、それ以上かも知れない大悪党だ。第一、吾輩の前ではスッカリ猫を冠《かぶ》っているが、ウッカリすると吾輩に敗けない位の精神病学者で、おまけに人情の弱点を利用する事に頗《すこぶ》る妙を得ているという事が一ペンにわかってしまったのだ。……というのはほかでもない。この遺言書にも書いておいた通り、彼《か》れ若林鏡太郎が、この事件の勃発当時に、学長の権威を利用して彼《か》の少女を生きた亡者にしてしまって、自分の手中に握り込んだ目的がどこにあるかという事は、その当時から今日までどうしてもわからなかったのであるが、今となってみると何の事はない。彼奴は、君が或る程度まで本性を回復した
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