信させた上で、吾輩に面会させようとしているのだ。そうして吾輩をこの世に二人といない、極悪無道の人非人《にんぴにん》として君に指摘させようとしているのだよ」
「エッ。あなたを……」
「ウン。まあ聞け。君がよく気を落ちつけて、今朝《けさ》から起った出来事を今一度ハッキリと頭の中で考え合わせて来さえすれば、万事が何の苦もなく解決するのだ。……いいかい」
 正木博士は改めて真面目に帰ったように、落ち付いた調子で咳一咳《がいいちがい》した。椅子の上に反《そ》り返って濃い煙をあとからあとから吹き上げると、悠然として大暖炉の横にかかったカレンダーを振り返った。
「いいかい。改めて云っておくが、今日は大正十五年の十月二十日だよ。いいかい。もう一度、繰り返して云っておく。きょうは大正十五年の十月二十日……この遺言書に書いてある通り、呉一郎が一個月振でこの解放治療場にヒョックリと出て来て、鉢巻儀作爺の畠打ちを見物していた、十月十九日のその翌日なんだよ。……その証拠にあのカレンダーを見たまえ。……OCTOBER……19……すなわち昨日《きのう》の日付になっている。これは吾輩が昨日からあまり忙がしかったので、
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