同じ系統の心理遺伝の発作を起して、とりあえず仮死の状態に陥ってしまった。ところが、若林の怪手腕によって、そこから息を吹き返して来ると、今度は千年も前に死んだ玄宗皇帝や楊貴妃を慕ったり、居もしない姉さんに済まないと云い出したり、又は赤ん坊を抱く真似をして、お前は日本人になるんだよと云ったりしていた……尤《もっと》も今では、よほど正気付いてはいるがね……」
「……ソ……それじゃ……ア……あの娘の……名前は……何というので……」
「ナニ。名前……聞かなくたってわかっているだろう。音に聞えた姪の浜小町さ……呉モヨ子さ……」
「……エッ……ソ……それじゃ……僕は呉一郎……」
 私が、こう云いかけた時、正木博士はその大きなへの字口をピッタリと噤《つぐ》んだ。葉巻の煙に顔をしかめ[#「しかめ」に傍点]たまま、黒い瞳の焦点をピッタリと私の顔に静止さした。
 私は全身の血が見る見る心臓へ集中して、消え込んで行くように感じた。額から生汗がポタポタと滴《したた》り落ちて、唇がわなわなとふるえ出して、又もフラフラとなりかけたように思った。大|卓子《テーブル》に両手を支えて立っている自分の身体《からだ》が空気と
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