て……おまけに肥って」
「……ハイ……」
と呉一郎も相変らずニコニコしながら、又も鍬の上り下りを見守り初める。
「何をしているんだね。ここで……」
と正木博士はその顔を覗き込むようにして尋ねた。……と、呉一郎は鍬に眼を注いだまま静かに答えた。
「……あの人の畠打《はたう》ちを見ているのです」
「フーム。だいぶ意識がハッキリして来たな」
と正木博士は独言《ひとりごと》のように云いつつ、その横顔を見上げ見下していたが、やがて心持ち語勢を強めて云った。
「……そうじゃあるまい。あの鍬が借りたいのだろう」
この言葉が終らぬうちに一郎の頬がサッと白くなった。眼を丸くして正木博士の顔を見たが、間もなく又、鍬の方を振り返りつつ独言《ひとりごと》のようにつぶやいた。
「……そうです……あれは僕の鍬なのです」
「ウン。それは解っているよ」
と正木博士はうなずいて見せた。
「……あの鍬は君のものなんだ。しかし折角《せっかく》ああやって熱心に稼いでいるんだから、もうすこし待っていてくれないか。そのうちに十二時のドンが鳴れば、あの爺さんはキットあの鍬を放り出して、飯を喰いに行くにきまっているんだから
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