るかね」
と云い云い自分の鼻を指した。
呉一郎はそのまま、矢張りマジマジとした眼付きで正木博士の顔を見ていたが、間もなく唇をムズムズと動かした。
「……お父さん……です……」
「アッハッハッハッハッハッハッハッ」
と正木博士は一層愉快そうに……しまいには呉一郎の手を離してトテモ堪《たま》らなさそうに笑いこけた。
「アーッハッハッハッハッ。どうも驚いたな。それじゃ君のお父さんは二人いる訳だね」
呉一郎は考えるともなく躊躇したが、間もなく黙ってうなずいた。正木博士はいよいよ腹を抱えた。
「ワッハッハッハッ。トテモ素敵だ。珍無類だ。……それじゃ君は、その二人のお父さんの名前を記憶《おぼ》えているかね」
正木博士が冗談半分見たようにこう云い出すと、今まで煙《けむ》に捲かれて面喰い気味の一座の人々の顔が一時にサッと緊張味を示した。
しかし、呉一郎はこう尋ねられるとフッと暗い顔になった。静かに眼を外《そ》らして、窓の外一パイに輝いている五月晴《さつきば》れの空を飽かず飽かず眺めているようであったが、やがて何事かを思い出したらしく、その大きな眼に涙を一パイに浮き出させた。その様子を見てい
前へ
次へ
全939ページ中616ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング