が、みるみる柔らいで行った。呉一郎の横頬を見ながらニッコリとして、消えかかった葉巻を吸立てつつ、気軽い調子で口を開いた。
「そのオジサンを知っているかね君は……」
 呉一郎は、若林博士の蒼い、長い顔を見上げたまま、こころもちうなずいた。夢を見るような眼つきになりつつ……。それを見ると正木博士の微笑が一層深くなった。その時に呉一郎の唇がムズムズと動いた。
「……知っています。僕のお父さんです」
 ……と……。けれどもこの言葉が終るか終らぬかに変った若林博士の表情の物凄さ……只さえ青い顔が見る間に血の気《け》を喪《うしな》って白堊《はくあ》のように光りを失った額のまん中に青筋が二本モリモリと這い出した。憤怒とも驚愕とも形容の出来ない形相《ぎょうそう》になったと思うとヒクヒクと顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》を震わしつつ正木博士を振り返った。今にも噛み付きそうな凄まじい眼色をして……。
 併《しか》し正木博士はそんな事には気が附かぬかのように、四方《あたり》構わぬ大声をあげて笑い出した。
「ハッハッハッハッ。お父さんはよかったね。……それじゃこのオジサンは誰だか知ってい
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