いた。いくら名探偵だってそう敏活に頭が働らいちゃ困る。第一吾輩と若林が飯の喰い上げになる。
まあまあ急《せ》き込まずと待ってくれ給え。たとい諸君の目指す人間が、正真正銘間違いなしのこの事件の真っ黒星で、若林君の所謂仮想の怪魔人であるにしても、要するにそれは一つの推測で、確乎《かっこ》たる証跡があるわけではなかろう。又、たとい確乎動かすべからざる証跡があって、犯人は現在どこに居って、どんな事をしているという事まで、諸君の方で知って御座るにしても、その犯人を取って押えてタタキ上げて御覧になった揚げ句に、アッとビックリ二の句が告げない新事実を、事件の裏面に発見されたならば、如何遊ばすおつもりかね。フフフフフ……。
だからいわない事じゃない。こんな深刻不可思議な事件を、一寸《ちょっと》した証拠や、概念的な推理で判断するのは絶対危険の大禁物である。すくなくともこの事件が、前記の通りの状態で勃発して後《のち》、如何なる径路を履《ふ》んで吾輩の手にズルズルベッタリに辷《すべ》り込んで来たか。それに対して吾輩が如何なる観察を下し、如何なる方法に依って研究の歩武《ほぶ》を進めて来たか、且つ又、その研
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