る若林君の主張と、精神病学者としての吾輩の、該事件に対する主張の中心は、事件の勃発当初からハッキリと正反対になっていて、今日に到るまでも一致せずにいることを……。すなわち若林君はその法医学者特有の眼光に照して、この事件には是非とも別に、隠れたる犯人が居るに相違ない。その犯人がどこからか糸を操《あやつ》って、この事件に関するあらゆる不思議な現象を自由自在に弄《もてあそ》びつつ衆目《しゅうもく》を晦《くら》ましているに違いない……と初めからきめてかかっているのに対して、吾輩の方はドッコイそうは行かぬ。精神科学の立場から見ると、これは所謂《いわゆる》「犯人無き犯罪事件」だ。外形内容共に奇抜な精神病の発作のあらわれに過ぎないので、被害者も犯人も共に、或る錯覚の下に同一の人間となって行った兇行に外ならぬのだ。それでも是非に犯人が必要だというのなら、呉一郎にこんな心理を遺伝せしめた先祖を捕えて牢屋へブチ込めと主張している。ここにこの事件の中心的興味が繋《つな》がっている訳だが……。
 エッ……ナナ何だって……ブルブル……もうこの事件の真犯人がわかったというのかね……。
 ……イヤ……これあドウモ驚
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