服姿の一郎殿と赤い帯を締めたオモヨさんとが、仲よさそうに並んで跼《かが》みながら、両手を合わせて御座るところが見えました。それを見るとお八代さんは何やら胸が塞《ふさ》がりましたらしく、急いで顔を押えながらお霊屋《たまや》の方へ行かれましたが、私はあとに残りまして、まことにお似つかわしいお二人の姿を見守りながら、呉様のお家の行く末の事なぞを考えるともなく考えておりますと、そのうちに、ゆくりなくも二《ふ》た昔以前のお千世殿のお話を思い出しましたので、思わずハッと致した事で御座いました。……尤もその折に、これは年寄の要らざる気苦労ではないかと考えぬでも御座いませなんだが、それでも気に懸《かか》っておりましたものと見えて、その夜になりますとどうしても寝つかれなくなったので御座います。
――そこで私はソロソロと起き上りましてナ……窓からさし込む月のあかりと、お燈明《とうみょう》の光を便《たよ》りに、唯一人で本堂に参りまして、御本尊様を勿体《もったい》のうは御座いましたが両手をかけて、ゆすぶり動かしてみますと、この前の時には慥《たし》かに聞えておりました物音が、すこしも致しませぬ。……のみならず
前へ
次へ
全939ページ中598ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング