白汗《はっかん》を流して喘《あえ》ぐばかりなりしが、流石《さすが》に積年の業力《ごうりき》尽きずやありけむ。又は一点の機微に転身をやしたりけむ、忽然《こつぜん》衝天《しょうてん》の勇を奮《ふる》ひ起して大刀を上段|真向《まっこう》に振り冠《かむ》り、精鋭|一呵《いっか》、電光の如く斬り込み来るを飜《ひら》りと避けつゝ礑《はた》と打つ。竹杖の冴《さ》え過《あや》またず。喜三郎の眉間《みけん》に当れば、眼《まなこ》くるめき飛び退《の》き様、横に払ひし虚につけ入りたる虹汀、喜三郎の腰に帯びたる小刀の柄《つか》に手をかくるとひとしく、さらば望みに任せするぞと、云ひも終らず一間余り走り退《の》くよと見えけるが、再び大刀を振り上げし喜三郎は、そのまま虚空にのけぞりて、仏だふれに仰《あお》のきたふれつ。大袈裟《おおげさ》がけに斬り放されし右の肩より湧き出づる血に、雪を染めつゝ息絶えける。
此の勢ひに怖れをなしけむ。残りし者は遠く逃れて、逐《お》はむとする者も見えざりければ、虹汀今は心安しと、奪ひし小刀を亡骸《なきがら》に返し、掌《たなごころ》を合はせ珠数《じゅず》を揉《も》みつゝ、念仏両三遍|唱《
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