繽紛《ひんぷん》として六美女の名に因《ちな》むが如く、長汀曲浦《ちょうていきょくほ》五里に亘る行路の絶勝は、須臾《たちまち》にして長聯《ちょうれん》の銀屏《ぎんぺい》と化して、虹汀が彩管《さいかん》に擬《まが》ふかと疑はる。
かくて稍《やや》一里を出でし頃ほひ、東天|漸《ようや》く紅《くれない》ならむとする折しもあれ、後《うしろ》の方に当つて人音《ひとおと》夥《おびただ》しく近づき来るものあり。虹汀、何事ぞと振り返るに、その数二三十と思しき捕吏《とりて》の面々、手に/\獲物を携《たずさ》へたる中に、彼《か》の海中に陥りし半面鬼相の雲井喜三郎、如何にしてか蘇《よみがえ》りけむ、白鉢巻、小具足、陣羽織、野袴《のばかま》の扮装《いでたち》物々しく、長刀を横たへて目前に追ひ迫り来り、大音|揚《あ》げて罵《ののし》るやう、やをれ悪僧|其処《そこ》動くな。此間は汝《なんじ》を大公儀の隠目付《かくしめつけ》と思ひあやまり、一旦の遠慮に惜しき刃《やいば》を収めしが、其後《そののち》藩命を蒙《こうむ》りて、あまねく汝の素性行跡を探りしに、画工と佯《いつわ》つて当城下の地形《ちぎょう》を窺《うかが》ふの
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