ん》にして、件《くだん》の絵巻物を傍《かたわら》の火炉中に投じ、一片の煙と化し了《おわ》んぬ。
 かくて虹汀は心静かに座定を出で、家人を招き集めて演《の》べけるやうは「吾《われ》、法力によつて、呉家の悪因縁を断つ事を得たり。すなはち此灰を仏像に納めて三界の万霊と共に供養《くよう》し、自身は俗体となつて、此家に婿となり、勝果《しょうか》を万代に胎《のこ》さむと欲す。家人の思はるゝ処あらば差し置かず承らまほし」とありけるが、一人も所存を申し出づるもの無く、ひたぶるに国老雲井家の咎《とが》めを懼《おそ》るゝ体《てい》也。虹汀其心を察し、その日の裡《うち》に厚く労《ねぎら》ひて家人に暇《いとま》を与へ、家屋|倉廩《そうりん》を封じて「公儀に返還す。呉坪太《くれつぼた》」と大書したる木札を打ち、唯、金銀、書画の類のみを四駄に負はせて高荷《たかに》に作り、屈竟《くっきょう》の壮夫《わかもの》に口を取らせ、其身は弥勒の仏像を負ひて呉家の系図を懐《ふところ》にし、六美女の手を引きて、あくる日の昧爽《まだき》に浜崎を立ち出で、東《あずま》の方を志す。折ふし延宝二年|臘月《ろうげつ》朔日《ついたち》の雪、
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