妾もいかゞはせむと打ち惑ひ侍りしが、かよわき身の詮方《せんかた》もなく、案じ佗《わ》び候ひし折柄、此程の秋の取り入れごと相済み候ひて、稍《やや》落ち付き侍りし今宵《こよい》の事、彼《か》の雲井喜三郎といふ御仁、御供人《おんともびと》も召し連れ給はず、御羽織袴《おはおりはかま》も召されぬ儘《まま》、唯お一人にて、思ひもかけず吾家へお見えなされ候。
 這《こ》は如何にとて皆々|走《は》せまどひ、御酒肴《ごしゅこう》取りあへず奥座敷に請《しょう》じ参らするうち、妾も化粧をあらためて御席にまかり出で侍りしが、彼《か》の御仁体を見奉《みたてまつ》るに、半面は焼け爛《ただ》れて偏《ひと》へに土くれの如く、又残る片側《かたつら》は、眉|千切《ちぎ》れ絶え、眥《まなじり》白く出で、唇|斜《ななめ》に偏《かたよ》りて、まことに鬼の形《すがた》とや云はむ。剰《あまつさ》へ何方《いずかた》にて召されしものか、御酒気あたりを薫《くん》じ払ひて、そのおそろしさ、身うちわなゝくばかりに侍り。そをやう/\に堪《た》へ忍びて、心も危ふく御酌《おしゃく》に立ち候ひしに、御盃の数いく程も無きうちに、無手《むず》と妾の手を
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