執《と》り給ひつ。その時、妾、思はず手を引き候ひしに、御盃の中のもの、御膝に打ちこぼれしより、忽《たちま》ち御酒乱の体《てい》とならせ給ひ、押し止《とど》むる乳母を抜く手を見せず討ち放され候。妾は其の間に逃れ出で、やう/\に此処まで参り侍りしが、かばかり打ち続く吾家の不祥、又は、此身の不倖《ふしあわせ》のがれ方なく、たゞ死なむとのみ思ひ入り侍りしを、かく止《とど》められまゐらせ候。この上は唯《ただ》尼とやならむ。巡礼とやならむ。何国《いずく》の御方か存じ参らせねど、此の上の御慈悲《おんなさけ》に、そのすべ教へて賜はれかしと、砂にひれ伏して声を忍ぶ体《てい》なり。
虹汀聞き果てゝ打ち案ずる事|稍久《ややしばし》、やがて乙女を扶《たす》け起して云ひけるやう。よし/\吾に為《せ》ん術《すべ》あり。今はさばかり歎かせ給ふな。先《ま》づ其の絵巻物を披見して、御身《おんみ》の因果を明らめ参らせむと、六美女の手を曳《ひ》きて立ち去らむとする折しもあれ、松の陰より現はれ出でし半面鬼相の荒くれ武士、物をも云はず虹汀に斬りかゝる。虹汀、修禅の機鋒《きほう》を以て、身を転じて虚《くう》を斬らせ、咄嵯《とっ
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