らず絶え果て、妾《わらわ》、唯一人と相成りて候。わけても妾の兄|御前《ごぜん》二人は、此程引続きて悩乱の態《てい》となり、長兄は介隈《かいわい》の墓所を発《あば》き、次兄は妾を石にて打たむと仕るなぞ、恐ろしき事のみ致したる果《はて》、相次ぎて生命《いのち》を早め侍りしばかりにて、さる噂、一際《ひときわ》高まりたる折節に候へば大抵《およそ》の家の者は暇《いとま》を請ひ去り、永年召し使ひたる者も、妾を見候てため息を仕るのみ。はか/″\しく物云ふ者すらなく、わびしくも情なき極みと相成り果て候。
さる程に、かゝる折柄、此の唐津藩の御家老職、雲井なにがしと申す人、此事を聞き及ばれ候ひて、御三男の喜三郎となん云へる御仁《ごじん》をば、妾が婿がねに賜はり、名跡を嗣《つ》がせらる可き御沙汰あり。召し使ひたる男女《なんにょ》共、あたゞに立ち騒ぎ打ち喜びて、かほどの首尾《しあわせ》はよもあらじと、今までに引き換へてさゞめき合ひ候ひしが、そが中に唯一人、妾を守《も》り育て候|乳母《めのと》の者、さまで嬉しからぬ面《おも》もちにて打ち沈み居り候故、その仔細を尋ね候ひしに、ため息して申し侍るやう。這《こ》はゆ
前へ
次へ
全939ページ中576ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング