を止《とど》め給ひてその巻物を披見《ひけん》せられ、仏前に引摂結縁《いんじょうけちえん》し給ひて懇《ねんごろ》に読経供養《どきょうくよう》を賜はりし後《のち》、裏庭に在りし大栴檀樹《だいせんだんじゅ》を伐《き》つて其の赤肉《せきにく》を選み、手づから弥勒菩薩《みろくぼさつ》の座像を刻《きざ》みて其の胎内に彼《か》の絵巻物を納め、吾家の仏壇の本尊に安置し、向後《こうご》この仏壇の奉仕と、此の巻物の披見は、此の家の女人のみを以て仕《つかまつ》る可し。そのほか一切の男子の者を構へて近づくる事|勿《なか》れと固く禁《いまし》めて立ち去り給ひぬ。
その後、かの狂へる人の胤《たね》、玉の如き男子なりしが、事無く此世に生まれ出で、長じて妻を迎へ、吾家の名跡《みょうせき》を継ぎ候ひしが、勝空上人の戒めに依り、仏壇には余人を近づけしめず。閼伽《あか》、香華《こうげ》の供養をば、その妻女一人に司《つかさど》らしめつゝ、ひたすらに現世《げんぜ》の安穏、後生の善所を祈願し侍り。されども狂人の血を稟《う》け侍りし故にかありけむ。この男子壮年に及びて子宝《こだから》幾人《いくたり》を設けし後《のち》、又も妻女の
前へ
次へ
全939ページ中574ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング