ひるがえ》し、白く小さき足もと痛ましげに、荒磯の岩畳を渡りて虹汀の傍《かたわら》に近づき来り、見る人ありとも知らず西方に向ひて手を合はせ、良久《しばし》祈念を凝《こ》らすよと見えしが、涙を払ひて両袖をかき抱き、あはや海中に身を投ぜむ気色《きしょく》なり。虹汀|駭《おどろ》き馳せ寄りて抱き止め、程近き松原の砂清らかなる処に伴ひ、事の仔細を問ひ訊すに、かの乙女、はじめはひたぶるに打ち泣くのみなりしが、やう/\にして語り出づるやう。妾《わらわ》は此の浜崎といふ処に、呉《くれ》の某《なにがし》といふ家の一人娘にて六美女《むつみじょ》と申す者に侍《はべ》り。吾家《わがいえ》、代々此処の長をつとめて富み栄え候ひしが、満つれば欠くる世の習ひとかや。さるにても亦《また》、世に恐ろしき因縁とこそ申しつれ。昔より吾家に乱心の血脈尽きず。只今に及び候ては、妾唯一人、悲しくも生きて残り居る有様にてさむらふ。
 その最初《はじめ》を如何にと申すに、吾家に祖先より伝はれる一軸の絵巻物のはべり。中に美婦人の裸像を描き止《とど》めたり。承《うけたまわ》り及びたる処によれば、呉家の祖先なにがしと申せし人、最愛の夫人に死
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