《まさか》、それがあのような事の起る前兆《まえおき》とは夢にも思い寄りませなんだ。ただ学問のある人はあのような奇妙な素振りをするものか……と思い思い忙《せわ》しさに紛《まぎ》れて忘れておりましたような事で……ヘイ……。
 ――それから昨晩、家中《うちじゅう》の者が一人残らず寝静まってしまいましたのが午前の二時頃の事で御座いましたろうか。花嫁御のオモヨさんと、母親のお八代さんとは母屋《おもや》の奥座敷に……それから花婿どんの若旦那と、親代りの附添役になりました私は、離家《はなれ》に床を取って寝《やす》みました。尤《もっと》も私は若旦那よりもズット遅れまして、十二時過ぎに湯に這入りまして、離家の戸締りを致しますと、若旦那のお次の間の、茶の間になっている処へ床を取って寝みましたが、年寄りの癖で、今朝《けさ》ほど、まだ薄暗いうちに眼が醒めましたので、便所へ行こうと思いまして、二方|硝子《ガラス》雨戸の薄ら明りを便《たよ》りに若旦那のお室《へや》の前の縁側まで来ますと、そこの新しい障子が一枚開いて、その前の硝子雨戸が又一枚開いてあります。それからお室の中を覗きますと、寝床の中に若旦那のお姿が見え
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