たように思うので御座いますが、日が暮れるまえにチョット妙な事が御座いました。……私はそれから裏口の梔子《くちなし》の蔭に莚《むしろ》を敷きまして、煙管《きせる》を啣《くわ》えながら先刻《さいぜん》の蒸籠《せいろ》の繕《つくろ》い残りを綴《つづ》くっておりましたが、そこから梔子の枝越しに、離家の座敷の内部《ようす》が真正面《まむき》に見えますので、見るともなく見ておりますと、若旦那は離家のお座敷の机の前で着物を着換えさっしゃってから、オモヨさんが入れたお茶を飲みながら、何かしらオモヨさんに云い聞かせて御座るようで……硝子《ガラス》雨戸の中ですから声はわかりませぬが、お顔の色が平生《いつも》になく青ざめて、眉がヒクヒクと動いているあんばい[#「あんばい」に傍点]は、まるで何か叱って御座るようにも見えましたが、しかしよく気をつけて見ますと、そうでも御座いません。当の相手のオモヨさんはその前で洋服を畳みながら、赤い顔をして笑い笑い「イヤイヤ」と頭を横に振っているようで、まことに変なアンバイで御座いました。
 ――ところがそれを見ると若旦那はいよいよ青い顔になられまして、オモヨさんにピッタリとニ
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