こう行こう」と云われるうちに若旦那は俄《にわか》にソワソワとなられて、石の上を飛び飛びに往来に出て、私の先に立ってズンズンお歩きになりましたが、そのおみ[#「おみ」に傍点]足の早かった事……まるで物に取り憑《つ》かれたようで、平生《いつも》とまるで違うておりました。今から思いますと、あの時からもう、いくらか妙な萌《きざ》しがありましたようで……。
 ――若旦那が家へお着きになりますと、すぐにお八代さんに「只今……遅うなりました」と云われましたが、お八代さんが「仙五郎に会いなすったか」と尋ねますと「ハイ。石切場の所で会いました。今そこに帰って来ております」と云うて、うしろから這入って来た私を指示《ゆびさ》されまして、サッサと離家《はなれ》の方へ行かれました。お八代さんは、それで安心したらしく、私には別に何にも尋ねずに、唯「御苦労」を云うただけで、横の板張に親椀《おやわん》を並べて拭いていたオモヨさんに眼顔で、差図《さしず》をしますと、オモヨさんは大勢に見られながら、恥かしそうに立上って、若旦那の後から鉄瓶を提《さ》げて、離家の方へ行きました。
 ――それからもう一つ、これは後から訳が判っ
前へ 次へ
全939ページ中550ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング