ているところで御座いましたけに、やりかけておりました蒸籠《せいろ》の修繕《つくろい》を片づけまして、煙草を一服吸うてから草鞋穿《わらじば》きのまま出かけましたのが、かれこれ四時頃で御座いましつろうか。軽便鉄道《けいべん》で西新町《にしじんまち》まで行きまして、今川橋の電車の行き詰りの処に、煮売屋《にうりや》を開いております私の弟の処へ立ち寄りまして「うちの若旦那を見かけなんだか」と問《たず》ねますと「おお……その若旦那なら、今から二時間ばかり前にここを通って、軌道には乗らずに歩いて西の方へ行かっしゃった。初めて大学の服をば着て御座るのを見た故《けん》、二人が表に出て、しばアらく見送っておった。良《え》え婿どんじゃなア」と夫婦で申します。
 ――若旦那は平生《ふだん》からこの軌道の煙のにおいがお嫌いだそうで、高等学校に行かっしゃる時も運動になるからちうて、毎日毎日姪の浜から田圃《たんぼ》伝いに歩かっしゃった位で御座います。しかし、それにしても今川橋から姪の浜までは一里そこらで御座いますから、二時間もかかる筈はないが……と心配しいしい帰りかけましたのが四時半頃で御座いましつろうか。国道沿い
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