体を階上の手摺《てすり》より吊り下し、相対《あいたい》する階段附近よりこれを正視して歓興したるものと察するを得《う》べく、此《かく》の如く観察し来る時は、被害者が二重三重に絞首されし後《のち》、縊死に擬せられたる等の、本事件の最重要なる各種の特徴は極めて自然に、且つ明白に説明され得るを見るべし。本事件の検案調査が、かかる諸点に留意されず、尋常一般の犯罪と同一視されたる結果、この方面に関する指紋、足跡等の事跡が大略看過されたる傾向あり。ために、かかる珍奇なる夢中遊行特有の怪奇なる行動の詳細に亘りて推測する能《あた》わざるものあるは復《また》やむを得ざる遺憾事と言うべし。
因《ちな》みに、呉一郎の夢中遊行の発作をここまで支持し来りし性慾衝動の最高潮状態は、この自己の屍体幻視を終極的として、解除されたるものと推測し得べき理由あり。爾後《じご》の呉一郎の行動は、この夢中遊行症の余波ともいうべき夢中遊行にして、筆者の所謂《いわゆる》、蹌踉状態[#「蹌踉状態」に傍点]に陥りたるものと認むるを得べし。然れども、その蹌踉《そうろう》状態の下に行われたる夢遊行動中にも亦《また》、本事件の表面上に現われ
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