、故に、ここには唯、斯の如き極端なる変態心理がその研究価値の頗《すこぶ》る高度、非常なるものあるにも拘らず、その発露する事例は決して稀有珍奇なるものに非ず、他の中間的なる変態性慾よりも却って普遍的なる傾向を有しおるものにして、相当の自省力を有する人士は常に、自己の心理生活の到るところにこの種の変態心理を発見し得べき事を証するに止むべし。
以上述ぶるところに依って、この事件の示す特徴を研究考察するに、呉一郎は、その夢中遊行の第一段たる絞首行為の前後に於て、その被害者の風貌が自己に酷似せる事を認めたるべきは推測に難《かた》からざるべし。而《しか》して同時にその夢中遊行の本源たる深刻痛切なる性慾の衝動が、その夢遊行動に依て解除さるるを得ざるがために、飽く事なき飜弄を続行中にも、幾回となく、その屍体の風貌の自己に彷彿《ほうふつ》たるものあるを認めしに相違なかるべく、その結果、おのずから自己虐殺の錯覚、幻覚に誘致され、屍体を自己に擬《ぎ》し、数回に亘りてこれを絞首したるものと認むるは、決して不自然なる推測に非《あら》ざるべし。かくして最後に、自己の屍体幻視の夢遊に移り、自己に擬したる被害者の屍
前へ
次へ
全939ページ中526ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング