遊行の発作なる事を、最も簡単、且つ適切に首肯し得ると同時に、その他の犯人に関する推断が、強いて第三者を仮想せむと試みたるより生じたる一種の錯覚なる事をも、遺憾なく説明し得べし。すなわち呉一郎は前記の性的衝動を心理に包みて熟睡後、これに依りて刺戟誘発されたる心理遺伝の発作のために夢中遊行状態となりて起き上り、その意識裡に現われたる夢幻(その内容はこの時まで不明)の欲求に従って、眼に当りたる被害者の帯締めを拾い取りて、その夢幻の対象たる一女性……実は母親……に対する兇行を遂げ、尚《なお》後《のち》に述ぶるが如く学術上の珍とすべき奇怪なる夢中遊行の若干を続行したる後《のち》、就寝したるものと推測さる。而して右の兇行は、同人の脳髄の作用、即ち意識的精神作用が熟睡に依《よっ》て休止しおる間に於て、全身の細胞相互間の反射交感作用が、脳髄の代用となりて(主として交感、迷走神経と連絡せる内臓の諸機関がこの役をつとめ、筋肉、結締組織、脂肪、血液等もこれに参加して、事後に於ける異常の疲労状態を呈す――拙著『精神病理学』参照)五官と直接に連絡し、見、聞き、判断し、且つ実行せるものなるを以て、覚醒後の有我的意
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