識界に潜在せる、或る恐るべき心理遺伝を刺戟して、夢中遊行状態を誘発し(後出第二回の発作の項参照)、遂《つい》に斯《か》かる兇行を演ぜしめたるものなる事を、以下|縷述《るじゅつ》するところの各項の理由に照して、逐次了解するを得《う》べし。

  【三】 呉一郎の第一回覚醒と夢中遊行との関係

 呉一郎が、同夜に限りて夜半の覚醒を見たるは、同人が従来あまり経験したる事なき異状なる出来事なる旨陳述せるが、右は又、適々《たまたま》以て、その後の睡眠間に於ける夢遊状態の存在を指示しおれる一徴候と認め得べき理由あり。然れども、この理由を明かにする以前に於て、必然的に考慮せられざるべからざる一事は、勝手口の支棒《つっかいぼう》の落ちたる音が、呉一郎の第一回の覚醒の原因となりおれる如く思惟されおることなり。右は呉一郎本人も、然《し》かく信じおれるが如くなるも、這《こ》は睡眠中の感覚作用と、覚醒時の知覚作用とを同一視せるより出でたる誤解にして、甚だ軽率なる判断なりと認むるに躊躇《ちゅうちょ》せず。何となれば睡眠中に或る音響を耳にして、直ちに覚醒したりと信じたるものが、覚醒後の正確なる判断力に依ってこれを
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