断定の基礎となるべきものなるを以て、特に冒頭に掲げて、注意を促す所以《ゆえん》なり。
【二】 夢遊状態を誘発せし暗示
事件発生の当夜、午前一時前後に覚醒して、母の寝顔を見たる時、異常の美しさを感じたりという呉一郎の告白は、前記の観察の妥当なる事を裏書せると同時に、同夜に於ける呉一郎の心理遺伝の発作、即ち夢遊状態発生の暗示[#「暗示」に傍点]が如何なる性質のものなりしかを説明しおるものと認め得べし。即ち、夜半の覚醒が、性的の衝動の高潮と切実なる関係を有せる事実に徴《ちょう》する時は、当時の呉一郎の精神状態は、或る危機の最高潮に瀕《ひん》しおりたるものなる事、前記の告白によって明かなるべし。而《しか》してその危機は、同人が一度階下に降りて用便し、再び二階に昇り来《きた》りたる間に著しく緩和されたる筈なり。且つ、その刺戟の対象たる母親千世子が、後《うしろ》向きになりたる姿を見たるがために、些《すく》なからず幻滅されて、平生の埋智に帰りて就寝したるものなる事も亦《また》察するに難《かた》からず。然れども此《かく》の如くにして一時抑圧されたる性的の衝動は、呉一郎が熟睡に陥るや、その無意
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