嬢さん方が見えると云って母は喜んでいました。けれども母は気が短かいので、よく生徒を叱りました。又よく無頼漢《ならずもの》や不良少年見たような者が生徒をからかいに来たり、母を脅迫《おどか》してお金を強請《ゆす》ったりしましたが、そんな時も母は一人で叱り付けて追い払いました。……ですから、この家《うち》の中に這入って来た男の人は家主のお爺さんと、中学時代の僕の受持の鴨打《かまち》先生と、電燈工夫ぐらいしかありません。そのほかには、母へ手紙が来た事もなければ、こっちから出した模様もありません。あんなに懇意だった近江屋のお神さんにも便りをしなかったようで、何でもかんでも自分の居所を人に知られるのを怖がっていたようです。その理由《わけ》は何故だか、僕にも話しませんでしたけれども、大方狸穴の占者《せんせい》の云った事を本当にし過ぎて、誰かが自分を狙っているように思ったのじゃないかと思います。母は迷信家ではありませんでしたが、狸穴の先生だけは真剣に信じていたようですから……。
――けれども僕は本当の事を云いますと、この直方《のうがた》を好きませんでした。それは東京からこっちへ来ます途中で、身体《か
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