とても綺麗なもので、毎日指の頭ぐらい宛《ずつ》しか出来ませんでしたが、それが出来上ったのを持って行って僕の手からお神さんに遣りますと、お神さんはビックリして、大きな声で家中《うちじゅう》の人を呼びましたが、みんな眼を丸くして感心しながら見ておりました。あとから聞きましたら、それは真物《ほんもの》の「縫い潰《つぶ》し」といって、今の人が誰も作り方を知らない昔の刺繍だったのだそうです。それからそのお神さんの御主人が母にお金を呉《く》れたようでしたが、お辞儀をして返して、お菓子だけ貰って帰りました。母とお神さんがいつまでも門口に立って泣いているので、僕は困ってしまいました。
――東京から直方《こちら》へ来たわけは、母が卜筮《うらない》を立てたんだそうです。「狸穴《まみあな》の先生はよく適中《あた》る」って云っていましたから大方、その先生が云ったのでしょう。「お前達親子は東京に居るといつまでも不運だ。きっと何かに呪われているのだから、その厄《やく》を落すためには故郷へ帰ったがいい。今年の旅立ちは西の方がいいとこの通り易のオモテに出ている。お前は三碧木星《さんぺきもくせい》で、菅原道真や市川左
前へ
次へ
全939ページ中474ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング