少女の唇が、微かにムズムズと動き出しました。ほのかな……夢のような声を洩らしました。
「……お兄さま……どこに……」……【溶暗[#「溶暗」は太字]】……

 【字幕[#「字幕」は太字]】 正木若林両博士の会見。
 【説明[#「説明」は太字]】 次に映写し出されましたるは、九州帝国大学精神病学教室本館階上、教授室に於ける正木博士の居睡《いねむ》り姿で御座います。時は大正十五年の五月二日……すなわち前回の映画にあらわしました若林博士の屍体スリ換えの場面が、正木博士の天然色浮出発声映画カメラ[#「天然色浮出発声映画カメラ」に傍点]のフィルムに収められましてから丁度一週間目の、お天気のいい午後の事で御座います。教授室の三方の窓には強い日光を受けた松の緑が眩《まぶ》しく波打っておりまして、早くも暑苦しい松蝉《まつぜみ》の声さえ聞えて来るのでありますが、南側に並んだ窓の一つ一つには、胡粉絵《ごふんえ》の色をした五月晴《さつきば》れの空が横たわって、その下を吹く明るい風が、目下工事中の解放治療場の作業の音を、次から次に吹込んで参ります。
 正面の大|卓子《テーブル》と、大暖炉との中間に在る、巨大《お
前へ 次へ
全939ページ中452ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング