、迷宮破りとまで称讃されている絶代のモノスゴイ頭脳の持主、若林鏡太郎博士が、かほどの惨憺たる苦心と、超常識的なトリックを用いて挑戦しつつある事件の内容……もしくはその犯人の頭脳が、如何に怪奇と不可解を極めた、凄絶なものであろうか……という事実に就いては最早《もはや》、十分十二分の御期待が出来ている事と存じます。しかも、この御期待に背《そむ》かない事件の驚くべき内容と、その過程の具体的なものが、順序を逐《お》うて諸君の眼前に展開して参りますのは、最早、程もない事と思われますので……。
 すなわち御覧の通り、事件は最早、既に、九大法医学部、解剖室内の黒怪人物、若林博士の手に落ちているので御座います。そうして同博士は今や、一代の智脳と精力を傾注しつつ、その怪事件を捲起した裏面の怪人物に対する、戦闘準備を整えているところですから……。

 却説《さて》……斯様にして屍体台帳の書換えを終りました若林博士は、その台帳を無記入《ブランク》の屍体検案書と一緒に、無雑作に机の上に投出しました。疲れ切った身体《からだ》を起して室内に散らばっているガーゼ、スポンジ、脱脂綿なぞを一つ残らず拾い集めて、文房具、
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