の少女の虐殺屍体を、隅から隅まで叮嚀に洗い浄《きよ》めましたが、次いでその皮膚の全面を、ガーゼと脱脂綿とでスッカリ拭い乾かしますと、その貧しい赤茶色の髪の毛を真二つに引分けて、傍《かたわら》に光り並んでいるメスの一つを取上ると見る間に、屍体の眉間《みけん》の処をブスリと一突き……それから次第に後頭部に到る頭の皮を、一直線にキリキリと截《き》り開いて行きました。
 ところで多少共にこの方面に関する知識を持っていられる方は、定めしここで「オヤ」と思われる事と存じます。若林博士のこうしたやり方は、普通の場合に於ける屍体解剖の手順になっております胸部、腹部から頭部、次に背部という順序を無視して、頭部から初めている事になりますから……。
 そもそも古今の名法医学者若林博士は、何の目的の下に、このような勝手気儘な順序を以てメスを揮《ふる》いはじめたのか……と疑う間もなく四一四号の少女の頭の皮は巧《たくみ》にクルリと裏返しにされまして、髪毛《かみのけ》と一緒に靴下を脱ぐように両眼の下まで引卸されました。次に、その下から現われました白い坊主頭を、鋸《のこぎり》で鉢巻形に引切りました若林博士は、その下か
前へ 次へ
全939ページ中433ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング